世界を敵にまわしても


――あの曲だった。


先生が作った、あたしが文化祭で歌った、あの楽譜の曲。


全然、違った。


静かな始まり思いのほか高い音で、流れるように、追いかけるように、後から後から色んな音が出て来て。


上がったり、下がったり。早くなったり、遅くなったり。


晴が弾いてくれた時と同じ曲のはずなのに、激しさが違った。


泣いてるんじゃない。


泣くより、もっと。声を上げて号泣するより、もっと。


悲しくて、苦しくて、身が裂けそうなほど痛みが走る。


慟哭という言葉がピッタリだと思った。そんな想いを、知ってると思った。


……先生が、ピアノを弾いてる。


パッと音が消えて、すぐにまた弾いて。弾むように軽く、楽しげかと思えば、落ち込んだように音が重くなる。


苦しい。楽しい。ツラい。嬉しい。悲しい。胸いっぱいに感情が溢れて、うまくいかない、たくさんの出来事が頭をよぎる。


あたしの目に涙が浮かんですぐに、先生は曲の早さや激しさを体中で表現した。


先生の両手がフワッと、鍵盤から宙に浮く。
< 527 / 551 >

この作品をシェア

pagetop