世界を敵にまわしても
穏やかな風が髪をなびかせて、ふと校門へ向かっていた足を止める。
先程まで居た校舎を見上げると、ゆっくりと西へ沈む太陽が、校舎まで夕焼け色に染めていた。
たくさんのベランダのひとつに見えた、人影すらも淡く輝かせる。
……朝霧先生?
3階の1番奥。確かにそこは音楽室だけど、ベランダで何してるんだろう。あたしの視力は1.5だから、見間違いは有り得ない。
ジッと見上げるあたしは気付いているけど、朝霧先生は見えてるんだろうか。
眼鏡だし、目が悪そう。
そう思っていると、手すりに寄り掛かっていた朝霧先生が手を上げた。
ユラユラと左右に動く手は、もしかしなくても手を振ってる?
思わず周りを見渡したけれど、やっぱりあたしに気付いてるらしい。
「……」
手を振るのをやめた朝霧先生は、また手すりに寄り掛かって微笑んでる。
……輪郭がオレンジ色になってますよ、先生。
何秒、そうしていたのかは分からないけど。自分の頬が熱くなるのは分かった。
『先生好きになるなんて有り得ないよなー』
ふと晴が言った言葉がよぎって、胸がチクリと痛む。
……無いない。
何か綺麗で、感動しただけ。
そう思って、未だにこちらを見てる朝霧先生に軽く頭を下げて、足早に校門を出た。
チクチクと胸が痛むのと同時に、キューッと締め付けられる苦しさを、確かに感じながら。