世界を敵にまわしても


穏やかな風が髪をなびかせて、ふと校門へ向かっていた足を止める。


先程まで居た校舎を見上げると、ゆっくりと西へ沈む太陽が、校舎まで夕焼け色に染めていた。


たくさんのベランダのひとつに見えた、人影すらも淡く輝かせる。


……朝霧先生?


3階の1番奥。確かにそこは音楽室だけど、ベランダで何してるんだろう。あたしの視力は1.5だから、見間違いは有り得ない。


ジッと見上げるあたしは気付いているけど、朝霧先生は見えてるんだろうか。


眼鏡だし、目が悪そう。


そう思っていると、手すりに寄り掛かっていた朝霧先生が手を上げた。


ユラユラと左右に動く手は、もしかしなくても手を振ってる?


思わず周りを見渡したけれど、やっぱりあたしに気付いてるらしい。


「……」


手を振るのをやめた朝霧先生は、また手すりに寄り掛かって微笑んでる。


……輪郭がオレンジ色になってますよ、先生。


何秒、そうしていたのかは分からないけど。自分の頬が熱くなるのは分かった。



『先生好きになるなんて有り得ないよなー』


ふと晴が言った言葉がよぎって、胸がチクリと痛む。


……無いない。
何か綺麗で、感動しただけ。


そう思って、未だにこちらを見てる朝霧先生に軽く頭を下げて、足早に校門を出た。



チクチクと胸が痛むのと同時に、キューッと締め付けられる苦しさを、確かに感じながら。


< 66 / 551 >

この作品をシェア

pagetop