世界を敵にまわしても


お父さんとの思い出は、ハッキリ言ってあまりないけど。


小さい頃はもう少し家にいたような気がする。


割りと無口で、少し怖いイメージがあったけど。冷たくされたり、怒られた記憶はない。


あたしも昔は母に可愛がられていたけど、それは小学校に上がる頃までの話だ。


初めての受験に失敗してからは、厳しくなった気がする。


中学こそはと意気込んでいた母とあたしの目標は同じだったけど、結局落ちた。


勉強は出来ていたはずなのに、常にトップクラスの成績を取っていたはずなのに。


受験という大きな壁だけは、あたしに合格という文字を与えてはくれなかった。


1番重要で肝心なところで力を発揮出来ないあたしに、母は中学に上がった頃から冷たくなって……。


あたしは家庭教師をつけられて、同時に塾に通う半面、母は那月に力を注ぐことに集中した。


その頃か。

お父さんが家に寄り付かなくなったのは。


もともと初めから2人の教育方針は合っていなかったようで、たびたび喧嘩していたけど。


兄は受験に落ちたことはなかったし、喧嘩するようになったのはあたしが2回も失敗してからだ。


父はあまり勉学に興味がないみたいで、人との関わりの方を重視してた気がする。



……ごめんなさい。



ヒートアップする口喧嘩に心の中で呟いた時。


インターホンのチャイムが、無機質に鳴った。



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