世界を敵にまわしても
廊下に立ちつくしていたあたしは、閉じられた玄関のドアを見る。
家の中は一気に静寂に包まれ、鞄が床に落ちたことでハッと我にかえった。
ガチャリと言うドアが開く音に反応は出来たけれど、あたしを見つけた父の表情に言葉は出てこない。
「美月……」
驚きとと戸惑いが交じった、父の表情。その後ろであたしの姿を確認した、母の冷たい瞳。どちらも上手く受け止めることができなくて、視線をそらす。
「……あ、……あたし、出てくる」
震える唇でそう言って、逃げるように玄関へ向かった。
鍵を閉め忘れていたドアを開けると、見覚えのあるボトムが目に入る。
「こんばんは」
ボトムの次は、聞き覚えのある声。特徴のあるそれは、放課後によく聞いていた声だった。
「……え」
だ、誰……いや、違くて……。
「朝霧先生!?」
ドアを開けた先に立っていたのは、朝霧先生で間違いなかった。
長いと思っていた前髪を真ん中から分けていたし、サイドの髪を耳に掛けていたから一瞬誰か分からなかったけれど。
確かに、朝霧先生だった。
「な、何で……」
驚いたなんてもんじゃない。度肝を抜かれた。
そんなあたしに何も言わず微笑みを向けた朝霧先生は、多分廊下に立っている両親に視線を移す。