世界を敵にまわしても


廊下に立ちつくしていたあたしは、閉じられた玄関のドアを見る。


家の中は一気に静寂に包まれ、鞄が床に落ちたことでハッと我にかえった。


ガチャリと言うドアが開く音に反応は出来たけれど、あたしを見つけた父の表情に言葉は出てこない。


「美月……」


驚きとと戸惑いが交じった、父の表情。その後ろであたしの姿を確認した、母の冷たい瞳。どちらも上手く受け止めることができなくて、視線をそらす。


「……あ、……あたし、出てくる」


震える唇でそう言って、逃げるように玄関へ向かった。


鍵を閉め忘れていたドアを開けると、見覚えのあるボトムが目に入る。


「こんばんは」


ボトムの次は、聞き覚えのある声。特徴のあるそれは、放課後によく聞いていた声だった。


「……え」


だ、誰……いや、違くて……。



「朝霧先生!?」


ドアを開けた先に立っていたのは、朝霧先生で間違いなかった。


長いと思っていた前髪を真ん中から分けていたし、サイドの髪を耳に掛けていたから一瞬誰か分からなかったけれど。


確かに、朝霧先生だった。


「な、何で……」


驚いたなんてもんじゃない。度肝を抜かれた。


そんなあたしに何も言わず微笑みを向けた朝霧先生は、多分廊下に立っている両親に視線を移す。
< 69 / 551 >

この作品をシェア

pagetop