世界を敵にまわしても
カチャン、と閉まった玄関の音が、背中に意識を集中させる。
信じられない……あたしの成績表を今、母が持ってるなんて。
「見せなさい」
背後でそう言った父が、肩から手を放す。
あたしは堪らず拳を握って、階段の軋む音に顔を上げた。
兄と那月が、2階から降りてきたらしい。玄関付近で立ちつくすあたし達の様子を、黙って見ている。
……どうしよう。どうすればいいの?
「……美月」
父の呼び掛けに怖さと不安が交じって、握り締めた拳の中で汗が
滲む。
怖い。何を言われるのか、わからなくて。何を言われても、平気な素振りをできそうになくて。
「さっき、先生が言ってたことは本当か?」
いつの間にかうつむいていたあたしに、父の言葉はハッキリと届
いた。
……本当だと言ったら、何て言ってくれるんだろう。
乾ききった喉から声を絞り出すのも困難なのに、そんな淡い期待を持ってしまう。
「満点もある。他は全部90点台じゃないか」
「……」
「試験の総合順位、1位だったのか」
「……うん」
やっとの返事はかすれていて、すごくかっこわるかった。それでもそんな返事しか出てこなくて、熱くなる目頭に唇を結ぶ。
「入学してからずっとか」
「……ん」
「そうか」
背中に感じていたお父さんの気配が確実なものになったのは、グシャグシャと首がもげそうなくらい乱暴に頭を撫でられたからだった。
「頑張ったな」
ボロッと涙が落ちて、我慢出来なかった嗚咽が漏れる。