世界を敵にまわしても


「藍沢ー……上田ー……植木ー……」


普段絶対に見る事の出来ない、この教室での先生の姿。


音楽の授業は週に2回で、必ず午後だ。授業で見る先生と、今ここにいる先生は全く一緒だけど、少し眠たげ。


襟につく程度の黒髪は、しなやかというより柔らかそう。


黒縁の眼鏡に掛かる前髪を邪魔そうにするのを見た事がないけど、切る気ないのかな。


教壇に立つ先生は出席簿を持って、右手にペンを持ってるだけなのに。


何だろう。何か、違う。


背が高い分、姿勢の正しさがやたら目につく。


先生ってあんなに背筋真っ直ぐだったっけ。ていうかいつも、どんな感じだっけ。


「高城ー」

「……、はい」

見過ぎた。


バッチリ目が合って、でも先生はあたしの顔を確認するとすぐ次の人の名前を呼ぶ。


「……」


何だか気恥ずかしくなって、頬杖をつきながら視線を机に落とした。


……そうか。


今ここにいる先生は、担任代理。あたしは放課後の先生しか知らないから、少し違く感じるんだ。


「全員いるね。えーと、担任の本村先生だけど。お察しの通り体調崩されてお休みです。暫く俺が来る事になるけど、よろしくね」

「奏ちゃん暇だから、押し付けられたんだろーっ」


晴を含む男子も嬉しそうだけど、主に女子の「ヤッター」とか「ラッキー」と言う声が耳に入る。

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