世界を敵にまわしても
――ガラッ!
まるで見計らったように現れた存在に、騒がしかった音楽室は一気に静寂へと包まれる。
ショッキングピンクのヘッドホンを耳に当てて、制服というより私服に近い格好。遅刻したことに何の悪びれも見せず、音楽室を悠長に眺めるのは。
「黒沢! 今までどこにいたんだ?」
「……?」
「あぁ、聞こえてないよな……ヘッドホン」
朝霧先生が自分の耳を指差すと、当の本人は「あぁ」と口を動かしてヘッドホンを取った。
その指先も、伏せた睫毛も、揺れる金色の髪も、全てが美しく見える。
黒沢 椿(くろさわ つばき)、クラスどころか学校で1番奇抜で浮いた存在だと言える、一匹狼。
「どこにいたんだ?」
「保健室。寝てた」
「保健医はいなかったのか?」
「いたけど。起こしてって言ったのに、起こさねぇの」
「あぁ……それは残念だったな」
「でしょ。出席に丸しといてね」
妖艶な笑みを見せて、一匹狼はクラスメイトの視線など気にもせず自分の席へ向かう。
あたしの、前の席。
……ほんと綺麗。
「ウゼー」
「目立とうとすんなっつーの」
思わず見惚れていると、クスクスと笑う声が邪魔をする。その声の主はいつも、精一杯自分を着飾った女子達だ。