1ページの沈黙
「チカちゃん。お酒飲みたい」
あたしは前を歩く小柄なボブに、声を掛けた。
歩くたび、弾むように揺れるそれに思わず触れたくなる。
波多野のときもそうだけど、まるであたしは赤ちゃんのようだ。
なんでもかんでも触って、口に入れる。
チカは振り返ってにっこりと笑った。
「いいね。行きたい。私行きたいお店ある」
「よし。じゃあ決まり」
「待って。ヤナギくんも一緒じゃだめ?」
チカとヤナギくんは付き合ってる。
あたしとチカとヤナギくんと波多野は、同じ高校。
それから、チカだけ違う大学に行ってしまったけど、今でも仲が良い。
「いいけど、だったら波多野も呼んでよ」
なんて、駄々をこねてみる。
カップルとあたしってのもなんか嫌だった。
「今日はだめだよ。ヤナギくんもそう言ってた」
「……けち」
チカは「はいはい」と言ってどこかに電話を掛けた。
まあ、声の高さでヤナギくんだとわかる。
くるくると表情の変わるチカは、見ていて飽きない。
「すぐ来るって」
やった、とでも言うようににこにこと笑う。
チカはよく笑う。
あたしなんかとは違って、可愛らしい女の子だ。
顔やスタイルでは勝てないような魅力がある。
性格も穏やかで、優しい。
あたしは出来ればこんな子になりたかった。
誰からも好かれるような、チカに。
波多野のことを、穏やかに愛せるような、そんな女の子に。