1ページの沈黙
チカの行きたいと言った店は、大学のすぐ近くにある落ち着いた可愛らしい店だった。
ヤナギくんとは校門で落ち合い、結局3人で飲むことになる。
「最近できたんだよね~ヤナギくん達の大学の近くだし。気になってたんだあ」
チカは嬉しそうにそう言うと、先頭をきって店内に入っていった。
それをやれやれ、といった感じに追いかけるヤナギくん。
やわらかな、空気感。
想い、想われる関係。
あたしはそれを見て、いいなと思った。
どうして、あたしと波多野はこうはいかないんだろう。
「リカ!なにしてんの。はやく」
「んー」
あたしはチカに手を引かれて店内に入っていった。
やっぱり中も可愛い。
チカが好きそうな店だ。
こういう雰囲気の店にはあんまりお酒は置いてないと思ったのに、出されたメニューには日本酒からカクテルまで様々な種類がのっていた。
それに感心していると、チカが店員に「生3つ」と言ったのが聞こえた。
背も小さくて、服装も可愛らしいチカだが、あたしより飲む。
その顔に似合わず酒豪なのだ。
横でお通しをつまんでいるヤナギくんに声を掛ける。
「ねえ、なんで波多野は来ないの?」
「波多野?…ああ、なんかゼミのほうの飲み会だって」
「なにそれ。アイツそんなの行ったの」
「波多野にだって付き合いがあるんだよ」
あたしが不満を漏らすと、ヤナギくんははははと笑った。
「飲み会、あんまり好きじゃないのに」
「断れなかったんだろ」
波多野はゼミ生ともそんなに仲良くない。
はず、なんだけど。
だからあんまりそういったイベントには参加しない。
元々、人見知りで社交的じゃないから友達も少ない。
「…なにやらむかつく」
「リカはまだ波多野命なのかあ」
呆れたようにそう言うと、ヤナギくんは出されたビールを一口飲んだ。
既に半分ほど飲んでいたチカは、ぷうと口を膨らませてあたしを見ていた。