1ページの沈黙
「リカはそろそろ波多野くん離れしないとだよ!」
「…なんでよ」
普段、あたしにあまり意見しないチカが珍しく声を荒げた。
「だって、もう何年経つの?波多野くんはリカを選ばないじゃない」
もう酔いがまわっているのだろうか。
突然そんなことを言い出したチカに、あたしとヤナギくんは戸惑った。
「チカ…」
ヤナギくんが宥めるように言った。
あたしは彼女の目を直視できなくて、目線を外す。
チカってば。
…痛いところを突く。
あたしは飲んでいたジョッキをゴトリ、と置いた。
「いいの、あたしは」
「リカ、だめだよ」
「だめだよ」ともう一度言って、 チカはあたしを覗きこむ。
「私、リカには幸せになってほしい」
何言ってるの。
あたしは今でも、十分幸せだ。
「この先波多野くんをどれだけ想い続けるの?リカくらいの美人なら、いろんな男の人と知り合うことだってできるのに。どうして、そんなに波多野くんにこだわるの」
チカの瞳は心なしか潤んでいた。
きゅ、と唇を噛む力が強まる。
いい子だ、ほんとに。
あたしの友達のなかで、彼女が一番性格がよい。
友達になれて、よかったな。
「チカ」
こんなに真剣に心配してくれるチカには悪いと思う。
でも。
あたしはさ。
他の男なんて、いらない。
欲しくない。
あたしはね、
「波多野以外いらない」
泣き出しそうなチカを見て、あたしは繰り返した。
「波多野以外なんて、いらないの」
そう言うと、明らかに彼女の表情が曇った。
でもヤナギくんは、悲しげに微笑んだ。
チカも、ヤナギくんも良い奴だ。
ほんとに。
「あたしは波多野がいればいいよ。それが、幸せ」