1ページの沈黙


ムラノさんは、それからすぐに出ていった。


あたしがやっぱりいい、と言いだす前に帰ったのだろう。


部屋には不機嫌な波多野と、あたしだけが残った。



あたしは波多野の腰掛けるソファの向かいの椅子に座る。



「ねえ」



身を乗り出すと、 椅子はギギギと唸った。


「ねえ、なんでそんな機嫌悪いの」

「……悪くねえよ」


うなだれた波多野はぼそぼそと言った。



「うそ」

「嘘じゃねえ」

「うそだよ。アンタの煙草の数見りゃわかる」



あたしが強めに言うと、波多野はチッと舌打ちした。

それを聞いて、あたしは少し怯える。



怒った波多野は、きらい。



「そんなに、怒らなくてもいいじゃん」

「だから怒ってなんて…」
「怒ったよ。怖いよ」

「……」




「ねえ、波多野」

「…なんだよ」




波多野。


アンタの横顔が好き。


アンタの細い腕が好き。



アンタの、熱い唇が好き。




波多野。





こんなに、好きなんだけどな。



どうして波多野はあたしを好きじゃないんだろう。







「波多野」

「?」

「あたしが嫌いでしょ?」





「なに言ってんだ…」



呆れたようにため息をつく。

でも、否定はしない。





否定、してよ。




ううん、しないで。





もういっそのこと、突き放して。



お前なんか、嫌いだ。

顔も見たくない。




そう、言ってほしい。



もう二度と、アンタを好きだなんて言えないくらいに、ズタズタに。





だって。








だって波多野は。









あたしになびかない。




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