1ページの沈黙
やっぱり、波多野じゃないとだめだ。
久しぶりに友達に誘われて、一瞬でもアイツのこと忘れたい、なんて思ったのがいけなかった。
他の男に抱かれでもしたら、ころっと波多野のことなんかどうでもよくなるかと思った。
キスだけの波多野じゃなくて、全身であたしに快感を与えてくれたら。
そうしたら、本能で生きるあたしのことだ。
馬鹿みたいに、アイツのことなんてどうでもよくなるかな、なんて。
ほんとうに、救いようのない、バカ。
あんな衝動をあたしにはしらせるのは、波多野だけ。
あんなにキスに翻弄されるのは、波多野だけ。
いくら情熱的な男でも、駄目だ。
…波多野じゃなきゃ。
ムラノさんの誘いに断りを入れていた。
残念そうにしてなかなか食い下がらなかったけど、ごめんなさいと言って帰ってしまった。
「波多野離れ」
チカの言葉を借りるけど、あたしだって普通の恋愛を楽しみたい。
波多野に執着して、実のならない思いを募らせても辛いだけ。
幸せ?と聞かれたら、笑って頷けるようになりたい。
けど、だめだ。
だめだった。
「波多野ぉ…っ」
擦れる声で、呼ぶ。
現れるはずはないけれど。