1ページの沈黙


やっぱり、波多野じゃないとだめだ。



久しぶりに友達に誘われて、一瞬でもアイツのこと忘れたい、なんて思ったのがいけなかった。


他の男に抱かれでもしたら、ころっと波多野のことなんかどうでもよくなるかと思った。



キスだけの波多野じゃなくて、全身であたしに快感を与えてくれたら。
そうしたら、本能で生きるあたしのことだ。

馬鹿みたいに、アイツのことなんてどうでもよくなるかな、なんて。



ほんとうに、救いようのない、バカ。




あんな衝動をあたしにはしらせるのは、波多野だけ。

あんなにキスに翻弄されるのは、波多野だけ。



いくら情熱的な男でも、駄目だ。






…波多野じゃなきゃ。




ムラノさんの誘いに断りを入れていた。

残念そうにしてなかなか食い下がらなかったけど、ごめんなさいと言って帰ってしまった。




「波多野離れ」


チカの言葉を借りるけど、あたしだって普通の恋愛を楽しみたい。



波多野に執着して、実のならない思いを募らせても辛いだけ。


幸せ?と聞かれたら、笑って頷けるようになりたい。







けど、だめだ。




だめだった。



「波多野ぉ…っ」





擦れる声で、呼ぶ。


現れるはずはないけれど。




< 27 / 40 >

この作品をシェア

pagetop