1ページの沈黙
波多野と理央の関係を知ったのは、あたしが奴にちょっかいを出すようになってからだ。
一度校内でふたりが話しているところを見て、すごく嫉妬した。
理央がうらやましいと、初めて思った。
あのふたりの間には、なんとも言えない空気が流れていて一緒にいるとすごく好きなのだけど、あたしと波多野では到底作れないその空気に絶望もした。
それも、あの日までのこと。
黒と白のコントラスト。
焼香の香り。
そして、理央の白い、体。
あまりにも突然の事故だった。
冬の寒い日で、道路が凍結していて、スリップしたトラックが小さな理央につっこんだ。
即死だったと聞く。
泣きわめく両親の傍らで、事態を把握できていないあたしはぼうっとしていた。
なにもかもが、現実味がなくてテレビのなかにいるみたいで。
だから、目の前に波多野が現れても錯覚だと思ったのだ。
「リカ…」
子犬のように身を縮めてあたしにすがりついた波多野は、痛々しかった。
あたしはゆっくりと波多野の肩を抱いた。
「リカ、リカ…」
(理央が、死んでしまった)
リカ、と波多野はあたしのなかに姉の面影を探すように繰り返し呟いた。
姉が死んでしまったというのに、あたしは目の前の波多野を見ているほうが辛かった。
あたしの胸に顔を埋めて、泣き声みたいに名前を呼ぶ波多野。
「波多野、泣かないで」
波多野の涙を見たのは、これが最初で最後だった。
あたしは波多野に泣かないで、としか言えなかった。
波多野と理央の関係に、下らない嫉妬と怒りで変になりそうだった。
それと同時に、理央がいなくなったことをほっとしている自分に吐き気がするほど嫌気がさした。