1ページの沈黙
いつどこで、波多野と理央が知り合ったのかはわからなかったが、ふたりは恋人どうしではなかったらしい。
後々、波多野に問いただすとそんなことを言っていた。
でも、波多野が理央のことを特別に思っていたのは間違いがなかった。
人付き合いの悪い波多野を、あれだけ乱すような人間。
葬式での波多野の姿を見れば簡単に予測がつく。
好きだったのだ、と。
それからも波多野はあまり姉の話をしたがらなかった。
だから知らないうちに、理央の話はタブーとされて、今じゃよっぽどのことがないかぎり理央の話なんてしない。
すると、決まって波多野は辛そうな顔する。
それにあたしは思い出してほしくなかったから。
チカがあそこまであたしに食ってかかるのも納得がいく。
理央の妹である、あたしに波多野が恋愛感情を抱くなんてありえない。
律儀なアイツのことだ。
そんなのは、理央への裏切りだとかどうでもいいことを言うんだろう。
言わなくても、きっと負い目を感じ続けるのだろう。
でも、あたしはその妹だから。
簡単には突き放せないし、大事だと思ってくれている。
それにたぶん、波多野はあたしを見るときに、ときどき理央の面影を見ている気がする。
容姿は全く似ていないけれど、仕草とか似たところがあるのかもしれない。
悔しいけど、そうだと思う瞬間が極々稀にある。
あたしの横顔をちらりと眺めたときとか、うつむいたときとか。
決まってあたしがぼーっとしてるとき。
波多野はまだ理央を忘れていないんだと思い知らされる。