1ページの沈黙
「波多野、おいで」
あたしはヤツに向って手を広げる。
すると嫌そうな顔をして「行くかバカ」と言われた。
わかってる。
アンタは絶対自分からは来ないってことを。
あたしは渋々波多野の座るソファまで行って、ヤツを抱き締めた。
なんでか知らないが、悲しくてどうしようもなかった。
あのとき「泣かないで」と言ったあたしだったけど、それは自分のために言っていたのだとやっと気付く。
理央がいなくて、寂しい。
波多野が理央を好きで、寂しい。
とてもとても、寂しい。
波多野。
波多野。
「すきだよ」
「リカ…」
あたしは了承も得ずにその熱い唇に口づけた。
深く、深く。
あたしの存在を埋めつけるように。
唾液が零れた、と思ったらそれは自分の涙だった。
「あたしは、波多野がすき」
「すき」と、何度も呟いた。
波多野はあたしがどれだけアンタを好きかわかっちゃいない。
どれだけあたしが求めても、笑って流す。
お願いだ。
あたしを見て。
あたしだけを。
「選べなんて言わない」
「リカ…?」
波多野が不思議そうに顔を放した。
綺麗な瞳が、揺れてる。
「あたしか理央を選べ、なんて言わないから」
そんなこと。
そんな酷なこと、言わない。
言わないからさ。
「そばに、いさせて…」