1ページの沈黙


波多野の冷たい指が、あごにかけられた。

ゆっくりと上げられて、優しくキスされる。




相当ひどい顔でもしてたのだろうか。


この男が自らキスするなんて、明日は嵐だ。



沸騰しかけの頭で、ぼんやりと考える。





柔らかく、熱い唇。


あたしを翻弄しては、突き落とす舌。

重なる蒸気のような、吐息。





…ああ。



あたしはもうこれ以上なんて、いらない。




波多野がキスしてくれるだけでいい。

波多野があたしをその綺麗な瞳にうつしてくれれば、いいの。




堪え切れずに強く舌を絡ませる。


一瞬ひるんだ波多野が、それを優しく制す。



「んぅ…」



段々苦しくなってきたが、唇を離したくない。


一生、この熱に溺れていたい。




あたしは強く波多野の首を抱き締める。




薄く目を開けてみると、至近距離で真っ黒な両眼があたしを見つめていた。



身体中の体温が上がる。




…コイツ、ずっと見てたんだ。


自分に浮かされる、あたしを。

波多野に欲情する、あたしを。





本当に、嫌な男だよ。



アンタは。



人に生殺しみたいなマネして。






嘲笑っているの?

下げずんでいる?




バカな女だと、思っているんでしょう?





間違いないよ。


アンタの言うとおり、あたしはバカ。




だって、アンタはあたしになびかないのに。

それでもこんなに求めてしまう。


期待をしてしまう。






< 38 / 40 >

この作品をシェア

pagetop