1ページの沈黙
でもね、波多野。
アンタのためなら、あたしはどんなバカにもなってみせる。
アンタのためなら、なんにだってなれる。
こんなことだって言えてしまう。
「…っ…はたの」
「リカ…」
波多野はあたしの涙のあとを、ぎこちなく拭った。
加減の知らない指は恐る恐るあたしにの頬に触れる。
波多野の触れたとこが、熱くて
痛い。
「キレーな顔、台無し」
そう言って、小さく笑う。
その目元が好きだ。
その、薄い唇も。
真っ黒で綺麗な瞳も。
ああ、波多野。
アンタ、気付いていないでしょう。
あれだけ大事そうに抱えていたのに。
熱心に、それだけを見てあたしなんか見向きもしなかったのに。
バカは、アンタも同じだ。
しおりを挟むのも忘れて、分厚いヤツのアイデンティティーは床に放り出されていた。
乱雑に。
波多野。
アンタがその1ページを呼んでいる間に、どれだけキスができるか。
どれだけ好きと言えるか。
波多野はわかってない。
アンタがその気になって、たった一頁だけでいい。
その1ページの沈黙を、あたしにくれれば。
こんなにあたしは満たされる。