1ページの沈黙
ふと、あることに気付いた。
それと同時に胸がきゅんと痛くなる。
(…不機嫌の原因は、これか)
波多野が読んでいる本は、真新しかった。
かなり分厚いのに、まだ数ページしか進んでいない。
きっと今日読み始めたのだろう。
波多野は新しい本を読むときに、邪魔されるのを一番嫌う。
基本的に穏やかな男だけど、そのときだけすこしピリピリしてる。
あたし、なんで気付かなかったんだろう。
波多野が本を読むことなんて、日常すぎて気付くことも気付けなかった。
波多野は何も言わないから。
あたしがコイツのサインを掴んでやんなきゃいけない。
じゃないと、意志疎通が難しくなる。
まあ、でも。
さっきの態度は、単に読書を邪魔されたからだった。
なんだかそんな波多野が可愛くなってきて、やっぱりあたしは波多野に触れたくなる。
ねえ、波多野。
…構ってよ。
「キスしたいよ」
波多野。