1ページの沈黙
あたしは波多野の背後の窓に、両手をついた。
ソファに深く座る波多野の横から、腕をぐんと伸ばして。
膝立ちまでしないと、届かない。
あたしに囲われた波多野は暗い、とでも言うように眉を寄せた。
下を向く奴の睫毛、男のくせに長いな。
…なんでかなあ。
「波多野」
なんでよ。
あたしは腕を曲げて、波多野に近づく。
もう、鼻と鼻がくっつきそうだ。
ここからだと、眼鏡の奥がよく見える。
なんてキレイな、波多野の瞳。
なんでだろう。
「波多野」
コイツは、あたしになびかない。
「キスしていい?」
あたしは波多野の返事も聞かずに、その唇に自分のものを合わせた。
波多野が目を閉じてるかも、わからない。
どんな顔してるかも、わからない。
でも。
それでも、コイツの唇はいつでも熱い。
どんなに手が冷たくても、唇は熱を持ってる。
あたしは堪らなくて、舌をゆるやかに忍ばす。
それにめちゃくちゃ消極的な波多野の舌が、ひっこんではあたしが連れ戻す。
そんなことを繰り返していると、息が苦しくなってきた。
変だ。
あたしのリードだったはずなのに。
息がしずらいのは、波多野だったはずなのに。
相変わらず消極的なくせに、苦しくなるのはあたしのほう。
耐えきれずに、唇を放す。
つ、と唾液があたしたちの間を繋いで切れた。