CHANCE 1 (前編) =YOUTH=
転びそうになった私の背中に、サッと手を回してくれた。
そして、
「ダイジョブですかお嬢さん!?」
と言いながら、抱き起こしてくれた。
多分、私の顔は真っ赤になっちゃってるんだろうと思い、うつ向いたまま、
『ありがとうございます。』
「それじゃあ!」
と言って、歌手のKYUと一緒に玄関を出ていった。
その後ろ姿を眺めていたら、そこにSEIJIさんがやって来た。
「アレッ!?
アンナちゃん、KYUと一緒に帰らなかったの?」
『エッ!どういう事ですか?』
「だって、おんなじ事務所じゃん。
もしかしてアンナちゃんは、自分の会社のタレントって知らなかったの?」
『あんまりアナウンス部とタレント部って行き来が無いし、特に私ってタレントに興味無いから覚え無いんですよね。』
「それじゃあ、ミュージック ハウスに来た歌手も覚えていないの?」
『それは別ですよ。
一緒に仕事した人は覚えています。』
「もしかして、俺の名前は‥‥?」
『もちろん知ってますよ。
SEIJIさんでしょう。
当たり前じゃないですか!』
「俺の苗字は‥‥」
『‥‥‥‥』
「もしかして知らないの?
小川誠司って言うんだ。覚えといてな!」
『は~い!』
と言ってペロッと舌を出しておどけてみせた。
会社に帰ってから、アナウンス部の高橋先輩にKYUの事を聞いてみた。
『先輩、KYUって言うのは、ウチのタレントなんですか?』
「そうだよ。ウチの一押し歌手だから。
社長自らスカウトしてきて、CDの中で演奏しているのは社長の息子のバンドだって聞いてるよ。」
『ヘェ~!そうなんですか。』
「それがどうしたの。
彼、歌うまいだろ。」
『上手ですよね。
ちょっと聞いてみただけです。』
そっかぁ。と言う事は、あのタレントマネージャーもウチの社員って事よね。
今度、社内で会えるかな。
って言うか、どうして今まで会わなかったんだろ…。
って考えている時に、部長が
「アンナちゃん、ちょっと社長室に、この書類を持って行ってくれるかな。
後は、そのまま帰宅してOKだからね。
明日の日曜日はゆっくり休んで!
じゃあ、また月曜日に。お疲れさん!」
と、何やら沢山の書類?原稿?を渡された。