CHANCE 1 (前編) =YOUTH=
俺達が驚いてると、西条さんが、アボジ(親父)と本堂さんと一緒に遣って来た。
『全員集まったな!
KYUも、もうすぐ降りて来るから。』
「じゃあ、それまで音合わせやっときますんで。」
『森本君、グランドピアノは気に入ってくれたかな!?』
「メチャクチャ良いやつですよね。
このピアノは、音の立ち上がりが早いし、優しい音が出るから大好きですよ!
ひとつひとつの音が濁らないし、澄みきった透明感と密度の濃い音色は、ピアノのストラディバリウスと言っても良いかも。」
『さすが、森本君はピアノに詳しいなぁ。
今日は、思う存分堪能してくれ。』
音合わせも終わって、軽く個人練習をしている時に、KYUが遣って来た。
「お待たせしました。
僕は今日は、一生懸命頑張ります。 宜しくお願いします。」
『じゃあ、頭から行ってみようか!
西条ちゃん、本堂ちゃん、よろしくね!』
「はい。いつでもOKです。」
そして、俺達の演奏は始まった。
『ストップ!ストップ!
西条、クラシックギターに当ててるマイクのボリュームさぁ、小さすぎないか?』
「そんな事ないよ。
本堂のピアノに当ててるマイクのボリュームに問題ありじゃないのか?」
『俺は、全体のバランスを考えてセッティングしてんだよ。』
「あんまりボリューム上げすぎると、雑音拾うよ!」
『素人みたいな事言ってんじゃないよ!』
「二人とも、落ち着いて。
西条ちゃんも本堂ちゃんも、喧嘩しに来た訳じゃ無いんだから、もう一度セッティングしなおそうや。
何で、二人はいつも喧嘩腰でしか会話出来ないのかなぁ!?
じゃあ、もう一度頭から!」
思った通りだ。
二人が寄るといつもこうなって仕舞うんだから。
二人共、音楽の事になると一歩も引かないんだから……。
「じゃあ、ジョージ、頭の音は少しソフトに入ってくれるか。
俺は、少し強めにギター入れるから。」
『OKだよ~!』
「イントロの9小節目から、徐々にクレッシェンドしてKYUに繋げようぜ!」
『わかった。』
TAKE2で、Aメロまでいったところで、また本堂さんが……
「ドラムの彼、もう少し強めによろしく。
KYU、30小節目の音が外れたぞ。
4拍伸ばすところの音を、しっかりキープしてくれ。」