CHANCE 1 (前編) =YOUTH=
《愛美》
私の名前は、
金 愛美(キム・エミ)
通称名は、
林 愛美
ハヤシ マナミ
今は、40才だけど、今年で41才になっちゃうのよねぇ。
今から22年前、私が19才の夏だったわ。
高校を卒業してからは、母親と一緒に東大門(トンデムン)市場の中で、民芸品等の土産物屋さんを遣っていたの。
内緒でコピー商品なんかも売ってたわ。
だってさ、日本人観光客が喜んで買って行くんだもの、いくら国で禁止されていても、やめられないわ。
その当時、私には1年以上付き合っていた、売れないバンドマンがいたんだ。
でも、そんな事気にならなかったわ!
いつも、スタジオの隅で彼のバンド、XYZのメンバーが演奏しているのを観ていたり、二人で済州島に行ったりして楽しかったもん。
ところが、ある日突然、別れてくれ!って言って去っていった。
その日は、一日中泣いたわ。
好きな人が出来たからって理由、納得出来るはずないわよ。
それも、日本に住んでいる在日韓国人だって言うじゃない。
賢主(ヒョンジュ)は韓国に住んでいるんだから、あの女さえ日本に帰ってしまえば、また私のところに戻って来ると思っていたわ。
ところが、遠距離恋愛をしてまで、付き合うなんて!
だから、衝動的に私は車に飛び込んで死のうとしたわ。
でも、死ねなかったわ……。
その時、車を運転していた林氏は、事情を聞いて、優しくしてくれたし、色々と相談にものってくれたの。
その後、賢主(ヒョンジュ)達、XYZのメンバーは、《約束》って言う曲が大ヒットして、一躍有名人の仲間入りって感じ。
捨てられた私だけど、やっぱり彼の成功は嬉しかったわ!
その一曲だけで、人気は下火になって、解散したけど、音楽プロデューサーとして再起した彼をみて、嬉しい反面、寂しかったわ。
だって、喜びを分かち合う事も出来ないんだものね!
その後、あの女が日本から韓国の彼のところに嫁いで来たから、私もキッパリと彼を忘れて、優しくしてくれる林氏のプロポーズを受け入れたの。
泰浩(テホ)さんは、9才も年上だから、私の全てを知った上で、にっこり笑って私を抱きしめてくれたの。
だから、私も全力で彼を愛したわ。