CHANCE 1 (前編) =YOUTH=
4.Surprise
テギルと俺は、ハラボジ(お祖父さん)に挨拶して、アボジ(親父)の帰りを待っていた。
オモニ(お袋)は、呑気にチヂミを焼きながら、つまみ食いをしている。
気を付けないと太るよ!
なんて思いながら、ヘムルタン(海鮮鍋)の味見を頼まれて、テギルと一緒に味をチェック!
テギルが言うには、オモニの味付けは、なかなかのもんらしい。
さすが、長年食堂で料理していただけあって、テギルの味覚は鋭かった。
オモニの作ったヘムルタンは、けっこう美味しかったが、テギルが何かを少量入れただけで、まるでレストランで出てくる様な味に早変わりしている。
「テギル、美味いよ!
一体何を入れたんだい!?」
『だろう!
実は、このメンテイ(干し鱈)、少し崩れ落ちてるだろ!
その粉になっていたメンテイを入れたんだよ!』
「それだけ?」
『そうだよ。
日本でも、味を整える為に、カツオの粉末調味料を入れるんだろ!?』
「あぁ…!本だしか!
でも、メンテイの粉末だけで、こんなに味が変わるとは!」
『料理なんて、難しい様で、基本は案外単純なのさ!
例えば生魚!
刺し身で食べる時に、醤油を付けて食べるだろ!?
その醤油にワサビを加えるだけで、魚のうま味をもっと引き出してくれるじゃん。
何か1つ加えるだけで、より旨くなる。
ヘムルタンは魚介類が入っているから、それにもう一つメンテイと言う魚を加えただけ。
相性が合えば旨くなり、合わなければ不味くなる。
それだけの話なんだよ。』
「凄いなぁ。」
『まぁ、これは死んだアボジの受け売りなんだけどな!』
「オモニ、ちょっとテギルと部屋に居るから、晩御飯出来たら呼んでな!」
『ハ~イ!
もうすぐパパも帰って来ると思うから、そしたら声かけるからね。
テギルちゃん、嫌いな物ある!?』
『イ…いいえ、大丈夫ですので、オ…お気遣い無く。』
「何、緊張してるんだよ!?」
『だって、大会社の社長夫人から、テギルちゃんって…。』
「まぁ、普通の主婦だから。
日本に居るときは、焼肉屋のおばちゃんだから!」
『チャンス、誰がおばちゃんですって!?
これでもまだ30代なんですからね!』
「オモニ、何年を誤魔化してるの!?
もうとっくに40代だろ!」
『…。』