CHANCE 1 (前編)  =YOUTH=
そんな長谷さんを俺は凄いと思うんだ。

出世も高収入も捨て、ひたすら家族の為に頑張っているのだから。
強くて優しくて、仕事も出来る、俺の尊敬する兄貴的な存在である。

ただ、坊っちゃんと呼ぶのだけは、いい加減止めて欲しいけどね!

小さい頃は、良く長谷さん夫婦と一緒に海や山にと遊びに連れて行って貰った。
その頃坊っちゃんと呼ばれていたから、未だに坊っちゃんである。

そんな事を思い出しながら、俺は長谷さんに一礼して、エレベーターに乗り込み、6階へ向かった。

最上階に着いてエレベーターを降りた所には、秘書課のカウンターが有り、その奥が秘書室になっている。

秘書課の人は皆俺の事を知っているので、会釈して直ぐに社長室へ向かった。

『失礼します。テジュンです。』

「どうぞ。」

『親父、封筒を持って来ました。』

「あぁ、すまない。

って、なんて恰好してるんだよ。

従業員が引くだろ!」

『はい引かれました。って言うか、不審者に間違われました。』

「だろうなぁ。

今1階の受け付けカウンターには今年入社した子もいるからなぁ。」

『辻本って言ううるさい女ですね。』

「会ったんだね。
彼女は長谷さんの奥さんの姪っ子にあたるんだ。

彼女は苦労して育った頑張り屋さんで、高校の学費も自分のお小遣いも、全部バイトでやりくりしていたんだよ。

昔から良く知っている子で、小さい頃には大学まで行って、英語の先生になるのが夢だったんだ。

でも、彼女のお父さん、アッ、これ長谷さんの奥さんの弟さんなんだけど、その彼が交通事故で中三の時に亡くなったから、その夢を諦めたんだよ。

4年前、葬式の時にお前も連れて行ったから会った時の事覚えているだろ。」

『あのずっと泣いてた子って彼女だったんだ。』

「かなりショックを受けてたからなぁ。

彼女のお父さんもうちの会社のスタッフだったんだ。

企画開発課に所属していたんだよ。

あの頃、新しく商品を韓国から仕入れるにあたって、何を供給すれば会社の利益に繋がるかを毎日夜遅く迄話し合って居たんだが、睡眠不足が祟って居眠り運転してしまったんだ。」

『そうだったんだ。』

「私も責任を感じて、彼女に大学進学を勧めたんだ。

学費も生活費も面倒見てあげるからって言ったら、断られたよ。

その代わりに、ここで働かせて欲しいって頼まれたんだ。」
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