自由のギフト
携帯のアラームで僕は目を覚ます。
ノカを起こし、洗面所で顔と歯を磨き、再びノカを起こす。
僕は朝食前に歯を磨くタイプだ、歯磨きしてからじゃないと口に物を入れたくないし、目も覚めない。
ノカもどうやら先に磨くタイプのようで、その間に朝食の準備をする。
全ての支度が終わり朝食の前にそろった時、まだテレビに映る時計は、少しの余裕をしめしていた。
『いただきます。』
そろった声。
ご飯、目玉焼き、沢庵。
一人で食べるより、二人で食べる方がなんでご飯は美味しく感じるんだろう。
小さな幸せを感じる。

僕は、この不思議な状況に身を委ねる事に決めた。
なにも、納得して決めたわけじゃなくて、ノカとの過ごす数時間に温かさ、家族のにおいを感じた事と怖い物見たさからの興味が僕を後押ししていた。
それにそれほどにノカは手がかからなかった。
もし状況が変わらなければ僕はホントの父親になろうとどこかにそんな気持ちも小さく芽生えていた。
振り込まれたお金はいざ返せと言われた時にどうにかなるように、なるべくなら手をつけない事にし。
今の会社の退職金と今月分の給料が底をつけばノカを預けて働けばいい、そんな未来を考えながら、ノカを大家さんの所に預け仕事に向かった。


その日、大家さんの家で夕食をご馳走になった。
大家さん、ノカ、僕の三人だ。
テーブルに並ぶ、派手ではないが手の込んだ料理は仕事終わりのからっぽなお腹が大歓迎で迎える。
ノカはアレ、コレと嬉しそうに自分の手伝いを報告する。

この日に僕は仕事を辞めた。

そしてノカと過ごす生活の始まりになった。

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