レモンドロップス。
その後、陽斗が電話しても乾くんが電話しても、いずみちゃんからは反応が返ってこなかったらしい。
「菜美ちゃんから言われたこと、やっぱりこたえてんのかもな。」
確かにそうだと思う。
あの時のいずみちゃんの顔、自分の目の前の世界がなくなってしまったみたいに、真っ白だった。
「泥棒の子・・・、とか、ひどいこと言われちゃったしね」
にぎやかに人が行きかう、昼休みの中庭には全く似合わない言葉だ。
「・・・、あいつさ、子供の頃それが原因でいじめられてたことあるんだよ」
「え?」
「ずっと昔、親父がおれに会いに来たとき、いずみも一緒に連れてきてて、それで初めておれたち知り合ったんだ。
それからちょくちょく会うようになって、その時聞かされた。いじめのこと」
「家庭の事情が原因で?」
「そう、事情を知ってた近所の大人がまず噂したらしい。不倫のこと、おれの母親がノイローゼっぽくなって、事故で死んだこと。
親父とあいつの母親の二人が、おれの母親を死に追いやったってな」
「その噂が・・・」
「大人の噂話って、自然と子供にも伝わっちゃうんだよ。それでいずみは近所の子から、泥棒の子とか、愛人の子って言われるようになって・・・。結局今の家に引越しするまで、ずっと続いてたみたいだな。」
「そんな傷を、いずみちゃんはずっと持ってたんだね・・・。」
なのに、その傷をえぐるような出来事が起きて、いずみちゃんの心はどれだけの痛みを受けたんだろう。
「おれは親父のやったこと絶対に許せない。あいつは・・・。
でも、何の罪もないやつのこと噂して、傷つけるやつのこと、同じくらい許せない」
あたしはハッとして、陽斗の顔を見た。
その顔には、見たことのない激しい怒りがはっきり浮かんでいる。