レモンドロップス。

おまけの話、その日の夕方のこと。



長引いた練習がやっと終わってあたりが暗くなった中、トボトボ校門に向かって歩いていると・・・。


「お疲れ。」

「陽斗・・・、なんで?」


校門に持たれながら、陽斗がのんびり手を振っている。


「今日、バンドの練習じゃなかったの?」

「ん~、抜けてきた」

「うそ!いつから待ってたの?」

「・・・まあ、5時半くらいかな」


怪しい・・・。

陽斗はすました顔して笑ってるけど、ホントはもっと長い時間待ってた気がする。



「なんでわざわざ待ってたの?何か渡すものとかあったっけ? あイテッ!」


陽斗はあたしの頭をポカッと叩くと、

「あほ。あんなさみしそうな声して電話かけてきて、『ううん、なんでもない』って言われたら心配するだろ」

「・・・それで、練習が終わるまで待っててくれたの?」

「ついでにビックリさせてやろうと思って黙って待ってたんだけど、吹奏楽の練習って意外と長いな~」


陽斗はのんきそうに笑っている。


「・・・、ありがと」


体の真ん中に明かりがともったみたいに、じんわり暖かい。

いろんなモヤモヤが風に乗ってすうっと体から抜けていくのを感じた。


陽斗のくれた暖かさだけがあたしの中にしっかり残っている。


「よしっ、軽く走ってから帰るか!」

ひょいとあたしのかばんを取ると、陽斗は軽やかにバイク置き場に歩いてく。


「あ、でも飛ばしすぎないでね!」

あわてて後を追うあたしは、いつまでもこの明かりは消えないで、そう祈っていた。

< 131 / 285 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop