レモンドロップス。
「は、陽斗?」
「大声出すなって。こっちこい!」
陽斗はいつの間にかあたしの後ろに回って、しっかり腕をつかんでいた。
「え?どこ行くの?」
「表も裏もわーわーうるさいから、ちょっと避難」
陽斗は受付近くの壁にある扉を細く開けると、あたしの手を引いてスルリと中に入り込んだ。
「ここは・・?」
「物置。と鳩田さんの楽器置き場。ひとりでサボりたい時とかここに逃げ込むんだよ」
埃っぽい床の上に陽斗と並んでそっと腰を下ろした。
「陽斗って、ホントに騒がれるの苦手だね」
あたしは大げさに隠れてる陽斗の姿に、ちょっとおかしくなった。
だから、新学期に騒いでたクラスの女の子からも逃げ回って、今じゃちょっとした変人扱いされたりしている。
「ライブのときはどんな声も気にならないんだけどな~。実は俺、静かな環境の方が好きなのかも」
「確かに。だからいつも校舎の中じゃなく、外にいるんでしょ」
「あたり。」
いつのまにか、陽斗の手は物置に放置されていたアコースティックギターをいじっている。
ほとんど無意識。
「ホントに楽器が好きだね」
あたしの声にフッと陽斗が顔を上げる。
「こっち来て、彩香」
ギターを床に置くと、ゆっくりあたしの手を引いた。