レモンドロップス。

「は、陽斗?」

「大声出すなって。こっちこい!」

陽斗はいつの間にかあたしの後ろに回って、しっかり腕をつかんでいた。


「え?どこ行くの?」

「表も裏もわーわーうるさいから、ちょっと避難」

陽斗は受付近くの壁にある扉を細く開けると、あたしの手を引いてスルリと中に入り込んだ。


「ここは・・?」

「物置。と鳩田さんの楽器置き場。ひとりでサボりたい時とかここに逃げ込むんだよ」


埃っぽい床の上に陽斗と並んでそっと腰を下ろした。


「陽斗って、ホントに騒がれるの苦手だね」

あたしは大げさに隠れてる陽斗の姿に、ちょっとおかしくなった。

だから、新学期に騒いでたクラスの女の子からも逃げ回って、今じゃちょっとした変人扱いされたりしている。


「ライブのときはどんな声も気にならないんだけどな~。実は俺、静かな環境の方が好きなのかも」

「確かに。だからいつも校舎の中じゃなく、外にいるんでしょ」

「あたり。」

いつのまにか、陽斗の手は物置に放置されていたアコースティックギターをいじっている。

ほとんど無意識。


「ホントに楽器が好きだね」

あたしの声にフッと陽斗が顔を上げる。


「こっち来て、彩香」

ギターを床に置くと、ゆっくりあたしの手を引いた。


< 134 / 285 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop