レモンドロップス。

「彩香、大丈夫?」

その日は何回、同じせりふを言われただろう。


陽斗の事故のことは朝礼が始まる前、既にクラス中に知れ渡っているみたいだった。

菜美を手始めに、あたしと陽斗が付き合っていることを知っている子たちが次々に声をかけてくる。

「大変だったね。」

「戸田くんは大丈夫なの?」

「無事でよかったよ・・・。」

中には、クラス替え直後に陽斗を見て騒いでいた子もいる。

みんな陽斗と、あたしのことまで本当に心配してくれていて、またもや涙腺が緩みそうになった。



「おはよう~、みんな席に着けよ~。」

いつもの通り、健にぃが大声を上げながら教室に入ってくる。

「みんな、もう知ってるかもしれないけど、うちのクラスの戸田陽斗が昨日、バイク事故を起こした。」

健にぃはいつになく真剣な口調で話しながら、クラスをぐるりと見渡した。

「幸い命に別状はないけれども、しばらく入院が必要になるんで、みんな勉強のこととか生活のことでサポートしてやってくれな。」

教室の中も普段と違って私語は聞こえず、みんなじっと耳を傾けているのが分かった。

健にぃはチラッとあたしを見ると、ちょっと声を落として、

「今はバイクに乗ってるやつもいるけれど、今回の事故を受けて、特別な事情を持つ者以外はバイク通学は禁止になった。」

ええっ、という声が教室のあちこちでもれる。

「再開の時期はまだ検討中だけど、高校生は無謀運転や運転技術の未熟さからバイク事故を起こすことが多い。これを機会に、みんな交通安全についてしっかり考えるようにな。」


チクリ、胸が痛んだ。

陽斗は無謀運転なんてしない。

安全最優先のライダーだったのに、これじゃまるで陽斗が危険な運転をして事故を起こしたみたいだ。

きっと何か、理由があるはず・・・。




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