レモンドロップス。
「え?」
恐る恐る話しかけると、ようやく乾くんはあたしの視線に気づいたみたいだった。
「乾くん、どうかしたの?」
「あ~、いや、別に・・・。」
乾くんはちょっと困ったように頭をかいた。
浩一郎さんは、そんなあたしたちをじっと見ている。
何だろう、この空気・・・。
言いたいことがあるのに、言い出せない感じ。
そんな不思議な圧力をあたしは息苦しく感じた。
「とりあえず待合室に行こうか。彩香ちゃんも一緒にどう?」
浩一郎さんは静かに言った。
そしてチラリと出てきたばかりの病室のドアに目をやる。
浩一郎さんは陽斗に会話を聞かれたくないのかもしれない。
ふと、そんな気がして不安になった。
浩一郎さんと乾くんは、肩にかかったギターケースを背負いなおすと待合室の方に足を向けた。
あたしもとりあえず、2人の後を追って歩き出す。
後ろを振り返ると、陽斗の病室のドアが見える。
そのドアの向こう側で、じっと陽斗が外の物音に耳を澄ましている様子が、ふと目に浮かんだ。