レモンドロップス。

だめって、何が・・・?

あたしの顔に、そんな疑問が書いてあるのが見えたみたいに陽斗が言った。

「声が出たって、また何かの拍子に出なくなるかもしれない。自分にとって確かなものが何もないって思い知ったよ。また失うくらいなら、最初から無い方がマシ」

陽斗の声はいつの間にか、普段と変わらない明るいトーンに戻っていた。

でも、その言葉は陽斗自身を傷つけている。

その落差が、陽斗を途方もなく痛々しく見せていた。


「陽斗・・・、だけど」

「だけど、何?だってホントにそう思うから。それをあいつら、何にも分かってない・・・」

陽斗の声が急に震えた。

「余計なこと言わないでほしいよ、なんで余計なこと考えさせるんだよ?」

そう言って、ドン、ドンと左手でベッドを叩いた。

「陽斗、落ち着いて。やけにならないで・・・」

どうしたらいいのか分からず、オロオロするあたしの声は陽斗をさらに刺激してしまったみたいだった。

「こんなになるなら、腕だってなくなったほうがマシだよ。いらないんだよ!」

そう言って、さらに激しく左腕をベッドに叩きつけた。

何度も、何度も。

「陽斗、もうやめてよ!やめて!」

ベッドの手すりにガンガン叩きつける陽斗の肩に夢中ですがりついた。


同室のおじいさんが騒ぎに驚いて目を覚まし、ナースコールを押し、看護師さんが病室に駆けつけるまで。

陽斗はあたしを振り払ってベッドを叩き続けていた。


ガンガンガン・・・

その音は、涙でかすんだあたしの視界の中でずっと響き続けていた。

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