レモンドロップス。
「んで、最近の戸田君はどうなの?」
いつもの通り、菜美と食べるお昼ご飯。
最近はさすがに寒くて中庭には出ず、中庭に面した食堂があたしたちの定番だ。
窓の外に目を向けると枯葉もない桜の木が、寒々とした影を地面に落としているのが見えた。
「・・・、彩香?」
菜美があたしの視界にヌッと入り込んできて我に返った。
心配そうな菜美はきれいに整った眉をひそめている。
「あ、ごめん、意識とんでた」
「もう、しっかりしなよ。ほら、ご飯も食べて!」
菜美に促されてお弁当の中のちくわをつまんだ。
「・・・、陽斗、どんどんネガティブになっている気がする」
つるつると上品にうどんをすすっていた菜美があたしの言葉にピタリと手を止めた。
「まだ、前向きになれない感じなの?」
「うん、ていうか、自分は何をしても無駄だとか、こうなる運命だとかそんなこと言うばっかで・・・」
陽斗のところに通って、他愛もない話をする日が続いている。
先生の授業中の無駄話、部活の後輩の天然ボケの話、新しいショップの話、少しでも笑ってほしくて、いろんな話題を振ってみる。
最初は笑っている陽斗だけど、少しでもバンドの話や将来の話をすると、
『俺はダメだよ』
『疫病神に憑かれてるからなあ』
そんな言葉が返ってくる。
そのたび、あたしの心は空しさで押しつぶされそうになった。
何をしても、陽斗が包まれている冷たい殻を破ることはできないんだろうか。
あたしのしていることは全てが無駄・・・?
「・・・そのうちね、陽斗はずっとこのままなのかな、本当にそういう運命なのかなって思っちゃうんだよね」
「彩香はそんなこと言っちゃダメだよ。そんな悲しそうに笑わないでよ」
菜美は怒ったように、あたしの顔をギュッと両手ではさんだ。
「ふぁい、ふいまへん~」
あたしの言葉に、菜美はくくっと笑った。
その手はうどんのどんぶり鉢と同じくらい、暖かだった。