レモンドロップス。

1階の外来受付まで歩いてくると、足が震えて止まらなくなった。

足が動かない。

恐ろしい予感が毒のようにあたしの体中に回って、他に何も考えられなかった。


フラフラと近くの椅子に座り込むと、大きく息をついた。

あ、まだ足が震えている。

ひざに冷たい手をあてて弱々しく撫でた。

頭の中はぼんやりと曇って、何も浮かんでこない。



ふと気がつくと、周りに人が集まっている。

パジャマ姿の患者さんのほか、看護師さん、病院の職員の人たちの姿も見える。


いつもテレビが置いてある待合室スペースにはテレビの代わりに平べったい台が置いてあり、10人くらいの子どもたちがその横に見えた。


そういえば、聖歌隊のコンサートがあるって書いてあったっけ。

病院に張ってあったポスターを思い出す。

なんだか目にしたのがずっと昔の出来事のようだ、そう感じた。


お揃いのワンピースや蝶ネクタイで着飾った子どもたちが頬を赤らめてステージにあがる様子も、テレビの中の出来事のように遠くの世界に思える。


先生らしい大人が前で手を振り下ろすと、子どもたちは思いがけず柔らかな声で歌い始めた。


聞き覚えのあるメロディ、賛美歌だ。




いつくしみ深き 友なるイエスは


罪 咎 憂いを取り去り給う


心の嘆きを 包まず述べて


などかは降ろさぬ 負える重荷を






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