レモンドロップス。
5章 芽生え
◇君がいない
陽斗がいなくなったのはそのすぐ後のことだった、らしい。
クリスマスイブから数日後。
あたしが次に病院を訪ねた時、陽斗のベッドは空っぽだった。
「戸田さんなら、お正月はご自宅に戻られましたよ」
あたしが尋ねると、看護婦さんはあっさりそう言った。
「そうですか・・・」
その言葉に思わず肩の力ががくんと抜ける。
―――もうだめだ。
あの時ははっきりと感じたのに、時間が経つに連れてじわじわと思いが沸きあがってきた。
せめて、ちゃんと話をしてからお別れしたい。
今までのお礼も言いたいし。
いつのまにか、陽斗に会いに行く理由を探している自分がいた。
会えばまた同じことになると分かっているのに、膨らんでくる思いが止められない。
まるで魔法のようだ。
呪いのようだ。
自分の思いをコントロールできない。
メソメソ泣いて、怒って、逃げ出して、それでもずるずると甘い期待を捨てられない言い訳をしている。
自分がほんとにかっこ悪い。
それでもいつの間にかあたしの足は病院に向かっていた。
何度も何度も立ち止まりながら、それでも何かに背中を押されるようにして。
情けなくてもいい。
顔を見るだけでいい、話ができなくてもいい。
とにかく会いたい。
心は思いでいっぱいで、新年まであと2日だったのにそれすら気づかなかった。