レモンドロップス。

そっか・・・、お正月かぁ・・・。


病院を出てゆっくり坂道を下りながら、思わずため息をつく。

空は曇りだけど、遠くに見える街は寒さのせいか妙にくっきり明るく見えた。


陽斗のところを飛び出してから、自分がカレンダーも時計もちゃんと見てなかったことにやっと気づく。

あの時からあたしの時間が止まってたのかもしれない。



ふと足を止め、くるりと方向を変えた。

どうせならとことんかっこ悪くなってやる。

ここまで来たら、ついでだもんね。


そう決心してやって来た陽斗の家。

一回しか行ったことがなかったから、迷うかなと心配だったけどすんなりたどり着いた。

古い団地の3階。

「町で一番古い団地だからさ、エレベーターもないんだよな。運動不足に絶対ならない」

そう言って陽斗が笑っていたことをふと思い出した。


「戸田」の表札がついた薄青いドアの前に立つと、また心臓が大きく飛び跳ねはじめる。

一瞬ためらってから、インターホンを押した。


ポーンポーン。


でも、誰も出てこなかった。

「・・・留守かぁ」

結局、あたしは無駄にため息を陽斗の家の前に落としただけで終わった。


仕方ない、お正月休みが終わるのを待とう。

陽斗になんて声をかけたらいいのか分からない、まだ分からないけど。


曇り空の下、ため息をつきつき帰るしかなかったあたしはまだ、陽斗に再会できることをのん気に信じていた。


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