レモンドロップス。
「・・・転院?」
3学期の始業式の日、あたしが病院で聞いたのは思いもよらない事実だった。
陽斗の病室を担当していた看護師さんは、気の毒そうにあたしを見つめた。
「年明けすぐに戸田さんからお電話があってね、リハビリ施設の整った病院に移りたいって言われたの」
「そうだったんですか・・・」
「あたしたちも突然のことだったから驚いたんだけどね。知り合いに紹介されたみたいなの。転院手続きはさっき終わったところよ」
話している看護師さんの視線の先には、陽斗のいた病室がある。
確かに今、病室の入り口に陽斗の名札はなかった。
陽斗は消えた。
そう思っていても、まだ全然実感が沸いてこない。
「転院先の病院を教えてもらえませんか?」
あたしが言うと、看護師さんは困ったように頬に手を当てた。
「うーん・・・、ごめんなさいね。そういうことはご家族以外に教えてはいけないことになってるの」
「・・・そうですか」
そう言われると、あたしには他に返す言葉がない。
「ごめんなさいね。最近は情報開示の規則が厳しくなってて。力になってあげられなくて悪いわねえ」
彼女はまだ何か言い足りなさそうに、あたしを見つめる。
陽斗に会いに通った病室、笑ったり泣いたり怒ったり。
短い間だったけれど、確かな思い出がある場所だ。
そんなあたしたちの様子をずっと見ていたのに、余計なことを聞かない看護師さんにひそかに感謝した。
『あなた何も知らないの?あんなに熱心に通っていたのに』
いろいろ聞かれたら、いたたまれない気持ちになっていたと思うから。
「学校の先生の方が知ってるんじゃないかしら?」
「そうですね・・・、先生に聞いてみます」
むりやり笑顔を見せると看護師さんはうなずいて、
「早く分かるといいわね」