レモンドロップス。


受験生活がスタートすると、時間は飛ぶようにドンドン過ぎていく。

それはそれで充実していると言えるかもしれない。

友達がいる、目標がある、ただ忙しいわけじゃなくちゃんと意味があるんだから、辛いわけじゃない。


それでも突然現れる落とし穴みたいに、心の中がフッと空白になる瞬間があった。


道端に咲くタンポポのそばを通り過ぎるとき。

夕日に照らされてキラキラ光る川面を見たとき。

寝る前に部屋の電気を消したとき。


心の中から全てがいなくなり、切ない気持ちが代わりにこみ上げる。


優しい春の気配、全てが眠ったようになる静かな夜、それらはあたしに陽斗を感じさせる。


一度芽生えた気持ちってこんなに強いものなの?

まるで命を持った、生き物みたいだ。

突然よみがえってくる気持ちにいつも戸惑った。


だけどあたしには、行き場のないかわいそうな生き物を抱きしめて眠ることしかできない。


元気かな。


ちゃんとご飯食べてるかな。


笑ってるかな。


笑っててほしい。



ポツン、ポツン、一滴また一滴。


思いは雫になって心の中に溜まっていく。



< 255 / 285 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop