レモンドロップス。
◇小さな桜の木の下で
L団地はあたしが住んでいる所からバスで15分ほど離れた街はずれにあった。
新興住宅街と言われているけれど、まだ開発されたばかりで家はほとんど建っていない。
山の斜面にびっしりと空き地が張り付いている。
その日、バスを降りたあたしは日光のまぶしさに目を細めながら、段々畑のように積みあがった空き地の間をゆっくりと上がっていった。
ぽかぽかと天気が良くて、タンポポやなずなが空き地にかわいく咲いていて、周りはうっとりと霞がかっていて、なんだか夢の中にいるようだった。
空を見上げると、名前の知らない鳥がぴいぴいと鳴きながら飛んでいる。
坂道のてっぺんにあるさくらヶ丘公園に近づくにつれて、呼吸が荒くなってきた。
上り坂が苦しいからじゃない。
陽斗に会う緊張が、あたしを息苦しくさせていた。
お気に入りのワンピースにお気に入りのブーツ。
鏡の前で服を選ぶとき、前と同じようにおしゃれをしている自分がいた。
陽斗に会う前のドキドキ感はちっとも変わっていなかった。
心にほんの少し滲んでくる幸せな甘さも、少し遅れてやってくる切なさも同じ。
なんだかんだ言っても、あたしはまだ恋愛中なんだ。
そんな自分の気持ちをなんだか今はいとおしく思えた。
それでもさくらヶ丘公園に植えられた桜の木が見えた時、思わず足が止まった。
この坂を下りるとき、もうあたしと陽斗の再会は終わっているんだ。
そう思うと急に胸の鼓動が早く大きくなった。
前髪をささっと整えて深呼吸すると、もう一度足を踏み出した。
周りに人の姿を探したけど、気配すら感じることはできない。