レモンドロップス。
◇終わらない歌
「ギター、持ってきたの?」
「うん、アコースティックギター。子どもの頃から家にあって、おもちゃ代わりに使ってたからかなり古いんだけど」
ごそごそとギターケースを開くと、確かに傷だらけでかなり古ぼけたギターが現れる。
だけど弦はキリリと張られていて、糸巻きは春の光を受けてキラッと光っていて、なんだかとても凛々しく見えた。
「え、それ弾くの?」
「うん、だってそのために持ってきたんだから」
陽斗は弦の張りを調節しながらあっさりそう言った。
ギターを弾くのは難しい、そう言われたのはつい数ヶ月前だった。
今日だって、陽斗の左手はほとんど動いていない。
前よりもずっと白くて固そうに見えるのに、本当にギターを弾けるんだろうか。
とたんに不安や戸惑いがこみ上げた。
ギターが弾けなくなったことに荒れ狂い、心を閉ざしてしまった陽斗の姿がいやでも思い浮かんだ。
「あんまり無理しないでよ」
「まあ見てて・・・じゃなくて聞いてて、か。俺からの感謝の気持ちだから」
数ヶ月ぶりに陽斗の左手がネックを握るのを見た。
かすかにその手が震えている。