レモンドロップス。

 「よっしゃ、いくぞ」

 陽斗はつぶやくと、右手でボディを抱えてゆっくりと右手で弦をはじく。

 とたんに柔らかい和音があたり一面にこぼれた。


 あたしはその瞬間、全身が夕日の光に包まれたように感じた。

 河原で初めて合奏した、忘れられない曲。


 陽斗が弾き始めたのは、Yesterday Once Moreだった。 


 あの時と違い、陽斗は真剣に指の動きを見つめながら歌を口ずさみ、全身で音楽を奏でている。


 そして違っているのは姿勢だけじゃなかった。


 弦を押さえる左手に力が入らないのか、音程やリズムが安定していない。

 一音一音、陽斗はかみ締めるようにゆっくりとギターを弾いていた。

 それでも演奏はぎこちなくて、以前のような軽やかなメロディは聞こえてこない。


 だけど、それは確かに陽斗の音だった。 

 あたしの大好きな、陽斗がそこにいた。


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