レモンドロップス。
何かあると、いつも座り込んでギターを弾いていた陽斗。
あたしの演奏をへたくそ、とからかった陽斗。
ギターが弾けなくなり、いつも窓の外を眺めていた陽斗。
長い道を必死に歩いて歩いて、やっとあたしのいるこの場所まで来てくれたんだ。
帰ってきた、本当に陽斗は帰ってきたんだ。
そう思うともう我慢できなかった。
涙があふれてきて止まらない。
本当はすごく怖かった、陽斗の中にある冷たい殻の存在が。
触れた瞬間に自分の心まで凍り付いてしまう冷たさがずっと忘れられなかった。
陽斗のことをどこかでずっと怖がっていた自分がいることにやっと気がついた。
だけど、目の前の陽斗にその冷たさは感じられない。
プロを目指していた自分がつたない演奏をしていること、本当は悔しいはずなのにそんな風には全然見えなかった。
下手くそなギターを不器用に弾いている、まっさらな陽斗がいた。
この瞬間の陽斗をずっと覚えていよう、ずっと信じていこう、心からそう思える。
涙でグチャグチャになりながら、あたしはそんなことを懸命に考えていた。
陽斗はあたしの姿を見て一瞬声を詰まらせ、だけどぐっとこらえて歌い続けている。
あたしも泣いている場合じゃない、今の陽斗の姿を目に焼き付けなきゃ。