レモンドロップス。
真新しいメロディは春風に乗ってあたしたちの周りをくるくる回り、風にのって空に溶けていった。
演奏が終わると、あたしは思わず拍手した。
「ありがとう」
照れながら陽斗はぺこりと頭を下げる。
「すごくびっくりしたよ、でもまた陽斗の演奏が聞けるなんて本当に夢みたい。」
「彩香に会おうって決めてから必死で練習した。俺が彩香にあげられるものって結局これしか思いつかなくてさ。リハビリの先生にはまだ早いってかなり怒られたけど」
「え?そんな無理して大丈夫なの?」
陽斗は左手をゆっくりと右手で撫でた。
「今日は特別。明日からはまたこいつとじっくり付き合っていくよ。また活躍してもらう時がくるかもしれないし」
「うん、きっとね」
あたしは自然に、自分の手を陽斗の左手に重ねていた。
陽斗もかすかにあたしの手を握り返してくれた。
それが今の陽斗の精一杯の力、だけど懐かしい暖かさを感じて指先がじんとしびれるのを感じた。
「彩香、ごめん」
どきっとして陽斗を見ると、静かなまなざしがあたしを包みこんだ。
「何回も傷つけてごめん。今日会ってくれただけでも、本当に嬉しかった」
「陽斗・・・」
何を言おうとしてるんだろう。
ただただ予想がつかなくて、陽斗の語る言葉にあたしの耳は釘付けになった。
「でももし・・・許してくれるなら、また彩香のそばにいさせてほしいんだ」