貴方の声と遠回しなラヴソング
思わず視界に入れてしまう君の後ろ姿
手を伸ばせば届きそうなのに
君のこと 何も知らない僕は
君を振り向かせることさえ出来なくて
少しだけ伸ばした手は虚しく空を掴む
それは、私の大好きな、あの曲だった。
廉君はあの、優しい甘い声で、私が大好きなあの曲をギター無しで歌う。
あとどれだけの言葉を交わしたら
君は僕に振り向いてくれるのだろう
既に僕の胸は伝えることの出来ない
君への想いでもう張り裂けそうなのに
瞳を閉じれば浮かぶ 君の姿
ほら、僕はまた夢を見る
僕に優しく微笑みながら幸せそうに
愛の言葉を紡いだ 君の姿を
「――――っ、」
気が付くと私の目からは、沢山の涙が溢れていた。何回拭っても、何度も零れて行く。段々としゃくり上げて来て、息をするのがきつくなってきた。このままだと声を上げてしまいそうで。私はその場にしゃがみ込んで、必死に声を押し殺す。
「……なつ、き……?」
頭上から、愛しい、貴方の声がした。
ゆっくりと顔を上げる。目の前には、何時か見た表情の様に、目を丸くして驚く廉君が居た。
「お前、何で此処に? てか、何で泣いて……」
「やっぱり、廉君……貴方だったんだ……っ」
「―――っ!」
全て、兄から聞いたんだ。あの曲は、兄のバンド仲間が、恋した女の子を想って作った曲で。そのバンド仲間というのが、廉君。そして、その彼が恋した女の子が―――私。