貴方の声と遠回しなラヴソング


 次の日、今日は土曜日なのだが、兄に呼ばれて臨時のバイトが入った。元々来る筈だった人が、体調を崩して休んでいるらしい。今日休みの従業員の方達は、今日は皆都合が悪くて代わりに働く、という訳にはいかない様で、私が代わりに呼ばれたのだ。
 私が店に着いたのは、既に開店十分前だった。急いでスタッフルームに入り、身支度をする。メイド服、とまではいかないけれど、黒地の丈が短いドレスに、白いエプロン。どちらにもフリルやレースが沢山使われていて、お世辞無しに可愛い。男の人は、白いカッターシャツに黒いエプロン、所謂タブリエ姿だ。
 私は背中の白いリボンをきゅっ、と結び、頭にカチューシャを付けて部屋を出た。
「おはようございます!」
「おー夏稀ちゃん、おはよう」
 時刻は七時十三分。開店から十三分しか経っていないのにも関わらず、店内は朝食を此処で済ませようとしているお客様で、いっぱいだ。
 私もすぐに注文を取りに行く。新聞を片手に、小難しそうな顔をするサラリーマンや、これからデートなのか、オシャレな格好をしている男女。お客様の層は幅広い。朝は珈琲やサンドイッチの注文が多いため、店内に漂う香りは私自身の食欲もそそられるのだ。
「すみませーん」
「あ、はい!」
 声を掛けられ、注文を取りにそのお客様の下へ向かった。茶色い髪に、巻いた髪が良く似合う、綺麗な女性。
「あら……」
「へ?」
 不意に、聞き覚えのある声がした。もしかして、と思って目の前のお客様の顔を見る。するとそこには。



< 6 / 13 >

この作品をシェア

pagetop