あした、またここで
あたし
「ルカいなくなってもう半年かぁ。」

隣に座っていた直哉がぽつりと呟く。

「直哉ももうプレイヤーあがっちゃったもんね。あの頃は一緒に後輩潰して怖がられてさ。」

直哉はわざとらしく口に含んだビールを吹き出して笑う。

「あほか!うちも潰される側やったろ!ルカいないと新人飛ばんから平和やわ。」

「黙れエセ関西人!」

「おまっ、エセ言うなって!」


久々に卓に並んだ色とりどりの飾りボトル。

ここに来たら辛いとばかり思っていたけど、若い従業員ばかりのこの店はキャストの入れ替わりが激しく、ルカを知るキャストも数少なくなっていた。


カシス、メロン、キウイ、グレープフルーツ、それとブルーキュラソー。

ハイヒールの形をした『シンデレラ』のブルーは初めての飾りボトル。

まだあたしはただの喫茶店バイトの学生で、頑張って貯めたお金で入れた3万5千円のボトル。

馬鹿みたいにはしゃいで、何枚も写メを撮り合った。

ルカの写メも、もうデータフォルダのかなり後ろのほうにいっちゃったよ。


メロンを入れた時は喧嘩したね。

売り上げが足りないからってあたしが無理して入れたシンデレラを、シャンパンコールもせずに卓に置いて、ルカが別の子の席に行っちゃったから。

その子がヴーピン入れて、嫌みっぽくいちゃいちゃしてさ。

でもいくら喧嘩しても口の巧いルカには一度も勝てなかった。


全部ちゃんと覚えてるよ。

果実酒はあたしがルカのエースになって少しした頃。

ルカがいきなり自腹で全種類くれた。

同伴で寄ったゲーセンで、UFOーキャッチャー下手な癖にケアベアのキーホルダー全種類取ってくれてさ。

数がぴったりだったからとか言って果実酒のネック代わりにしたの。


ランディーはNo.4になった月の締め日。

22万したランディーは飾りボトルに興味ないあたしの一番の高額ボトル。

一番好きなボトル。

でも、この辺りからあたしたちおかしくなっちゃったね。


あたしたち、このお店で確かに輝いてたはずなのに。

ルカがいない。

ルカの存在を証明できるものはこのボトル達だけなんだ。

ルカ。

ルカ。
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