恋の恐怖症
「――どけどけぇ!」
いきなりの大声に、今までまったくその声が聞こえていなかったわたしは、咄嗟に反応することができなかった。
「……へ?」
――どんっ!!
……振り向いた瞬間には、時すでに遅し。
顔面から、相手の声の主に突撃していました…。
「いったぁ…」
額を打ったみたいで、少し頭がガンガンする。
相手の人もそれは同じみたいで、うずくまりながら必死に痛みをこらえているようだ。
座り込んでしまったその人に手を差し伸べようとすると、その人が顔をあげてわたしを睨むように見上げてきた。
はちみつと同じ色をした髪に、黒目がちなくりっとした目元は、どこか幼さが残る顔立ちをしている。
年下の男の子…かな?
「いってぇな……。お前な、さっきからどけって俺叫んでただろうが!?」
「ご、ごめんなさいっ!」
ま、またやっちゃったよわたし…。
よくぼーっとして周りが見えなくなっちゃうクセ直さないと、って気をつけてるのに…!
「あの、わたし…」
「…って、こんなことしてる場合じゃなかった!急がねえと!」
「あ、あの…」
「お前、今度からは気をつけろよ!じゃあな!」
男の子はそう言うと、すぐさま慌ただしく走り去っていってしまった。
…謝れなかったな、あの人に。
「はあ…せめてもう少し、早くしゃべれるようにならなきゃ…」
わたしは自分自身にため息をつきながらも、桜の木と別れを告げて、宗一郎さんの家へと向かうのだった。