恋の恐怖症



「――どけどけぇ!」






いきなりの大声に、今までまったくその声が聞こえていなかったわたしは、咄嗟に反応することができなかった。








「……へ?」







――どんっ!!







……振り向いた瞬間には、時すでに遅し。






顔面から、相手の声の主に突撃していました…。






「いったぁ…」






額を打ったみたいで、少し頭がガンガンする。





相手の人もそれは同じみたいで、うずくまりながら必死に痛みをこらえているようだ。





座り込んでしまったその人に手を差し伸べようとすると、その人が顔をあげてわたしを睨むように見上げてきた。





はちみつと同じ色をした髪に、黒目がちなくりっとした目元は、どこか幼さが残る顔立ちをしている。





年下の男の子…かな?






「いってぇな……。お前な、さっきからどけって俺叫んでただろうが!?」






「ご、ごめんなさいっ!」






ま、またやっちゃったよわたし…。






よくぼーっとして周りが見えなくなっちゃうクセ直さないと、って気をつけてるのに…!






「あの、わたし…」






「…って、こんなことしてる場合じゃなかった!急がねえと!」






「あ、あの…」






「お前、今度からは気をつけろよ!じゃあな!」






男の子はそう言うと、すぐさま慌ただしく走り去っていってしまった。






…謝れなかったな、あの人に。





「はあ…せめてもう少し、早くしゃべれるようにならなきゃ…」






わたしは自分自身にため息をつきながらも、桜の木と別れを告げて、宗一郎さんの家へと向かうのだった。
< 5 / 17 >

この作品をシェア

pagetop