恋の恐怖症
――3分後。
「はぁ…ギリギリ……つ、ついた…」
全力疾走のかいもあって、なんとか俺は時間内に家に着くことができた。
「お、おかえりハル。遅かったじゃないか」
部屋の中から顔を覗かせたのは、俺のオヤジである、斎藤宗一郎。
もう40代後半にもなるくせに、しわ一つない若作りな顔をしていて、昔はよく俺の兄と間違えられることがあったりした。
「だいぶ来るの遅かったな。学校が長引いたのか?」
「そうなんだよ。あのハゲ担任、無駄な話ばっかりしやがって…。おかげで電車にも乗り遅れた」
「こらこら、そんなこと言うものじゃないよ。そんなんじゃ、せっかく来てくれるお前の妹が怖がってしまうじゃないか」
オヤジはあくまで誠実に注意しているように見える。
…が、息子である俺は、オヤジの本質がどんなであるかよく知っている。
こんな風に叱りながら笑顔が全開に現れてるときは、絶対に俺をからかって遊ぼうとしているときだ。
こういうときのオヤジの顔は好きじゃない。
「何だよそれ。俺が知るか」
「おや、そんな風に言っていいのかな?」
「…だから何をだよ」
「私は知っているんだよ?ハルが妹が来るのをとても楽しみにしていて、毎日あと何日か、あと何日かって数えて…「そんなことするわけねえ!!」