恋の恐怖症
わざとすぎるほど、俺は大声を上げてオヤジの言葉を遮った。
「ハル…」
「…俺は、新しい母親も、妹も、欲しいなんて思ってねえ。俺にとっての家族は、父さんと…母さん、だけだ」
オヤジの顔を見ないようにして、俺は自分の部屋へと荷物を置くために階段を駆け上がった。
そして、部屋の扉に手を掛けかけたとき、下から、とても小さな声が聞こえてきた。
「――…ハル、お前ももう、前に進むときじゃないのか…?」
だから、この表情のときのオヤジは好きじゃないんだ。
俺のことなんか、すべてわかっていると言っているようで。
俺はオヤジのひとりごとを聞こえなかったフリをして、今度こそすばやく部屋の中へと入った。