天翔る奇跡たち
「あたしが子供だった頃、あんたは今みたいにしてあたしを庇ったわね。貴族でも何でもない村の取りかえっこのあたしを」
「いけないことなどしていない」
「あんたがそう言ったから……あんたがあたしを人間だって言ったから、ちゃんと心も体も成長してきた。あたしは人間だったから!」
「それが……今じゃ戦争でも起こすかというんだな。覚悟は」
「それがお望みでしょ。どうせあたしなんかの人生なんて、ゴミ同然なのよ! どーでもいいのよ! 組織は」
ガスの向こうで女性の声と、牛の鳴き声みたいな野太い男性の声がした。
涙混じりのようなその声が痛々しかった。それは彼女の心を凍り付かせ、彼女の人生を醜くも正しくもあるものとして強く肯定した。