天翔る奇跡たち


  ―某年某月某の日、坊ちゃまのご様子が優れない。チャイナすら部屋に入れないとい  うので、確認すると高熱を出していらっしゃる。医師によれば風邪と言うことであ   る。熱に浮かされるように母君の写真を抱いてお放しにならない。どうやら人にうつ  すとなおる、などと言った者がいたようだ。誠にけしからぬ事である。これでは人を  寄せ付けられぬ道理である。坊ちゃまは純粋でいらっしゃる。
  まだまだ無邪気なお年頃でいらっしゃるというのに、根拠のないことで若様を二重、  三重と苦しめたのはだれなのか? もし正直な者が名乗り出たとしても許すわけには  ゆかない。坊ちゃまのお命に関わる。今後一切、別館には近寄らせる事はできないだ  ろう……等々……

 こまごまと、ちっさなことから大変だった事まで。

 この世で一冊しかないアルバムだ。

 家を出るとき、持たせてもらったらしい。

 それまで、その存在自体、不明だったワケなんだけど。

「最後、恨み言だな……」

「ここでーと言った、とか。そしてそして、おまけに人称が、これ……」

「坊ちゃま! だもんなー! 笑かすー!」

「何が悪い? 俺は一領主の末っ子で、他に何も持たずに王様の養子に入ったんだ……」

 あっ、怒ってる。

「グリフが怒ってるよーガナッシュー」

「おめーは、笑いすぎだ」

「エーッ、あたしなのォ?」

 ひそひそ話していると、どうやらグリフの咳払い。聞こえてた……

「怒ってなんかいない。名前でしか実の両親のこと覚えてないなんて、おかしいだろうが。これ、気を遣ってくれたんだよ。連名で」
 
 あ、気づかなかったけど、本当だ。後ろの方にバックナンバーが紹介してあるなあ……

「バックナンバー?」

 ひっくり返して見てみると、背表紙にナンバーツーと書かれている。





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